スタートの時点でわざと希望を先に行かせた舞人
親友である山彦にはそれがどういう意味をもつのかが判っていた

「舞人・・・・・本気だな・・・・」

心配そうに呟く山彦
他の妻たちも心配そうな顔を見せていた・・・・・・・・





記憶喪失編外伝続編 償いと誓い 第3話






スタートから全力で逃げる希望のZ
希望はもともとドリフト好きなのでコーナーでは華麗なドリフトを見せる

ギャギャギャギャギャ プシャァー フォアアアア

「やるな・・・・・相当走りこんでなきゃこの走りはできない」

舞人も希望のテクニックには素直に感心していた
だが、彼の表情からは焦りという物がまったく見えない
むしろ、品定めをしているといった表現がピッタリの顔である
対して希望はというと・・・・・

「・・・くっ!!やっぱり舞人君凄い・・・! 余裕で食いついてくる・・・・」

後ろから来るプレッシャーになんとか耐えているという状況であった
バトルの直前につばさに言われたアドバイスが功を制していた

―ゾンミ、バックミラーは絶対に見ちゃ駄目だよ―

―・・・・舞人君のプレッシャーを直で受けないためだよね?―

―そういうこと。あいつのプレッシャーは凄まじいからね―

―・・・・わかってる。私は最高の走りを見せることだけを考えるよ―

希望もバトルは初心者ではない
だが、舞人は桁違いの修羅場を潜り抜けている猛者だ
後ろからのプレッシャーに負けてミスでもしようものならすぐに抜かれてしまう
希望もそれは重々承知していた

「一瞬でも気を抜いたらその瞬間にやられるっ!!なんとか耐え抜いてみせるっ!!」

知らず知らずのうちに呟く希望
だが、彼女は気づいていない
自分が維持しているペースですら、すでに自分の技量を超えてしまっている事を・・・・・・・





バトルも中盤戦に入り、ギャラリーも2人のテクニックを見て声援を送る

「すっげーっ!!テール・トゥ・ノーズのままだ!!」
「希望ちゃんもやるじゃんか!!」
「しかし舞人はそれ以上だぜ!!全然差がねえからな!!」

ギャラリーの言葉どおり、今や2台は完全に縦並びとなっていた
この場合、前方を走っている希望には凄まじいプレッシャーがかかる
走り屋の心理として、後ろにピッタリ付かれるという事
それはすなわち自分より相手のほうが速いと思い込みがちなのだ

「やっぱりテクニックじゃ舞人君には太刀打ちできない・・・・・けど諦める訳にはっ!!」

自分に言い聞かせるように呟く希望
実際彼女の言うとおり、舞人はテクニックでは希望をはるかに上回る
しかし舞人はある理由から実力を出さないでいた
なぜなら・・・・・

「もう少しで何かを思い出せそうだ・・・・もっと・・・もっとその走りを見せてくれっ!!」

舞人はバトルの途中で失われた記憶を取り戻そうとしていたからだ
前を走る希望の走り方がかすかに残っていた舞人の記憶を呼び起こそうとしていたのである
今まさに彼の脳裏には忘れていた光景が浮かんできていた

―舞人君、今日も隣乗せてね♪―
―やっぱり舞人君って凄いね〜♪―
―こうやって一緒に走ってると舞人君の傍に居るって実感できるの・・・―

おぼろげながらに浮かんでくる光景
舞人は頭痛に耐えつつも峠を下っていく
その先にある、捜し求めていたものを掴み取るために・・・・・・





―山頂 駐車場―

バトルも後半戦に突入しようかという所
山彦は無線でチームの仲間たちと連絡を取り合っていた

「こちら山頂。どうだ?2人の様子は」
『こちら第3コーナー!!今2台が通過したっ!!相変わらずZがアタマを取ってる!!』
「ペースはどんなもんだ?」
『ええと・・・・・マジかよっ!!舞人の自己ベストとそう変わりないぞっ!!』
「わかった・・・・」

ため息をつきながら無線を切る山彦
つばさたちも近くで聞いていたがその表情は晴れない

「ヤマ・・・・・・」
「うん・・・かなり無理してるな・・・」
「希望さん・・・・無理はしないでください・・・・」

そう言いながら2人の安否を気遣う面々
だが、次の瞬間その表情が一変する

『こちら第4コーナー!!頂上、聞こえるか!?』
「こちら頂上!!どうした!?」
『今2台が並んだ!!舞人の奴、最終コーナーでカウンター仕掛けるつもりだ!!』
「っ!!了解っ!!俺たちも今から下りる!!」

無線を切った山彦とつばさたちはすぐさま車に乗りこむ
この時、つばさたちはある予感を感じていた
あの事件で起こった、舞人の事故という予感を・・・・・・




―最終コーナー前のストレート―

「くっ・・・・・並ばれた・・・・けどまだっ!!」
「ここで決める・・・・・もう少し・・・・もう少しだっ!!」

ついに並ばれたことで希望にも焦りが見え始めていた
舞人は失われた記憶を取り戻そうと勝負をかける
だが、希望は最終コーナーでミスを犯してしまう

「・・・・・っ!?だ、駄目っ!!」
「っ!?いくらなんでもオーバーだぞっ!その進入速度はっ!!」

焦りからブレーキのタイミングを外してしまった希望
舞人は隣のZを目の端に置きながら同時にコーナーへ進入する
そして・・・・・

「駄目、立て直せない・・・・・っ!!」

希望の脳裏にはかつて舞人が味わった壮絶な事故が浮かんでいた
だがその時!!

「ちっ!!世話の焼ける!!」

舞人は自分のテクニックを最大限に生かした大技を披露した
その名も並列ドリフト・・・・前方の車のドリフトに自分のドリフトを合わせる高等テクニックである
これを使って希望のZとスープラを軽く接触させたのだ
接触されたことでトラクションが回復し立ち直る希望のZ
だがその代償として舞人のスープラは側壁に車体を当ててしまう事になる

ズギャァァァァ ガリガリガリガリ

激しい異音ともに減速し、停止するスープラ
希望は車を止めすぐさま駆け寄っていく

「舞人君っ!!」

顔を真っ青にしてスープラに近づく希望
舞人はゆっくりとスープラから降りてきた
頭を打ったらしく、血を少し流している

「っつぅ・・・・・ちっとばかし頭打っちまった・・・・」
「だ、大丈夫!?舞人君!!とりあえず病院へ!!」
「あ、ああ・・・・・・」

血相を変えて病院へ連絡する希望
舞人はとりあえず希望の車に乗せてもらい病院へ行くことになった
山彦とつばさたちもそれについていく
おき去りにされたスープラを見た舞人はこう呟いていた

「すまん、スープラ・・・・・やっと思い出したよ・・・・」と・・・・・






END