シンジは静かに目を開いた。
異様な臭気と共に小さなさざ波がこちらに向けてよせて来るのが見えた。
真っ赤なLCLの海が臭気と波の出所だった。
海面上に直立する人影が見える。
それがごく自然であるかのように立つ制服姿の少女はシンジをじっと見つめていた。
寂し気な紅い瞳が彼に何かを語りかけようとしている・・・・
(碇君・・・それでいいの?あの子とやっていけるの・・・・?)
声が聞こえたような気がした瞬間、レイの姿はシンジの視界から消失した。
しばらく呆然としていたシンジの目は、やがてレイの言うあの子の姿をさがした。
あの子は彼のすぐ傍らに横たわっていた。
真っ赤なプラグスーツの上から更に白い包帯を身にまとって・・・・
シンジは身体を起こすと、胸から不安と恐れが沸き上がるのを感じながらアスカの上にまたがった。
震える手を伸ばすとアスカの首を絞め始めた。
次第に絞める力が強まっていく・・・・
・・・・・・アスカの包帯の巻かれた腕が音もなく上がった。
手がシンジの頬に触れ、その感触を確かめるように動いた。
はっとするシンジ。
そしてアスカの顔に涙の粒が降り注がれた。
それまで焦点の定まらなかったアスカの青い瞳が動き、泣き濡れるシンジを見た。
「気持ち悪い・・・・・」
シンジの嗚咽が響き渡った。
観客のいない二人芝居
前編
「いつまでのっかってるのよ!!」
アスカは自分の上でうずくまり泣くシンジを突き飛ばすと上半身を起こした。
尻餅をつくシンジを怒気を込めた眼で睨みつけた。
「アンタ・・・・・どういうつもりよ!」
シンジはまだ泣いていた。
その様子にアスカは声のボリュームを一桁上げて叫んだ。
「なんでアタシの首絞めたか聞いているのよ!!」
憎悪のこもったアスカの声にシンジの涙が止まる。
ゆっくり顔をあげてアスカを見た。
二人の間に冷たい沈黙が流れる。
やがてシンジは独り言を言うように呟き出した。
「・・・・・・恐かった・・・また拒絶されるのが・・・さっきみたいに」
シンジの言う『さっき』が何時の事かアスカはすぐに理解した。
サードインパクトの時溶け合いながらもシンジを拒否し続けたあの時・・・・
いや! わかるはずないわ! アンタが全部アタシのものにならないならアタシ何もいらない! でもあなたとだけは死んでもいや!
そう、溶け合い一つになる事に反発するようにひたすら拒絶していた・・・ただシンジだけを。
「それで拒否される前に首絞めたって訳ね。アンタってホントにろくでもないヤツね。それじゃ誰からも拒否されるわよ!」
冷ややかな声を投げかけられ、背を丸めてすわるシンジの身体が震え出した。
その様子にアスカの不快感は更に高まる。
立ち上がると腰に手をあてるお決まりのポーズでシンジを見下ろし怒鳴り散らした。
「なによ、アンタ!アンタのせいでアタシがどんなに傷付いたと思ってんのよ!なんにもしてくれなかったくせに!傷つけるばっかりだったくせに!一人ぽっちが恐いくせしてアタシがそばにいるだけで・・・拒絶されるのが恐くて首を絞める?最低よ、生きてる値うちもない!」
両膝をかかえ、殻にでも閉じこもるようにして縮こまるシンジ。
何を言っても俯き視線向けようともしないシンジにとうとうアスカの怒りは頂点に達した。
「ホント・・・アンタ・・・・・・アンタ見てるといらいらすんのよ〜!!」
「自分みたいで?」
「!!」
突然言葉を返されてアスカは息を呑んだ。
シンジは縮こまった身体を少し緩めるとアスカに顔を向けた。
その眼にはアスカと同質の憎悪の感情が宿っていた。
一瞬ひるんだアスカにシンジの逆襲の言葉が襲い掛かった。
「アスカだってそうじゃないか!独りはいやなんだろ?独りが恐いくせして誰にも心を開かずに・・・独りが恐いくせして一人で生きていこうなんて・・・できる訳ないだろ!だからエヴァを動かせなくなった時に心が壊れちゃったんじゃないか!!」
「なんですってえ・・・・・」
「エヴァに乗れても大学出ててもなんにもならないよ!なんにも分かってないじゃないか!全然進歩してないよ!サードインパクトの前と・・・いくら強がってもだめだ」
「アンタ・・・・よくも」
「僕は自分がろくでもない人間だと分かっているよ・・・アスカのように強がって自分の汚らしさを隠したりごまかそうという気はない!自分が汚い欠陥だらけだと認めないアスカなんて・・・それこそ最低じゃないか!」
腰にあてたアスカの手がわなわなと震え出した。
怒りの表情はますます険しくなり怒髪天をつくと言うにふさわしい凄まじい形相と変わる。
「バカシンジ〜・・・・・アンタなんかに言われなくても・・・わかってるわよ・・・・・・アタシがそんな進歩のないバカだと思ってるの・・・良く分かってるわよ・・・自分がどれ程欠点だらけでどうしようもない人間か・・・・・汚らしさを隠す?そんな事ないわ・・・アンタが言うような最低じゃないわ!!」
「ふん、どうだか・・・・アスカが自分の弱さを認めるはずが・・」
せせら笑うシンジにアスカは猛然と飛びかかり、胸ぐらを掴んだ。
血走った眼をぎらつかせ、シンジを傲然と見据える。
「何がおかしいのよ!!アンタこそ、アンタこそどうなのよ!?人の首絞めておいてなにが変わったっての?」
「う、ぐ・・」
「見せてやるわよお〜、アタシだって、アタシだって・・・アンタにバカにされてたまるかあ〜!!」
「う、うぐ、僕だって・・・僕だって・・・」
そして二人の怒りと憎しみに満ちた醜い争いがはじまった・・・・
すいません、えいりと申します。
とても短い前編でした。
一日で書いたもので・・・・
しかしこれじゃどんな話かわからんな〜。
とはいっても結局後編を読めばなんだやっぱりえいりだと思うかもしれません。
後編は一月中になんとかします。
前編のペースを維持すりゃもっと早くいける・・・かな?
急ごしらえのものですいません。
後編こそ、サービス、サービス(ほんまかい?)
えいりさんありがとうございます。これからもがんばってください。
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